紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  本の紹介

 石田正昭 著: 農村版 コミュニティ・ビジネスのすすめ
             −地域再活性化とJAの役割−

           2008年発刊 家の光協会 231頁

(本の構成)
  はしがき
  第1章  農村版コミュニティ・ビジネスとは何か
  第2章  農業・農村はコミュニティ・ビジネスの宝庫
  第3章  野菜かごで結ぶ産消提携 ースイスのCSAに学ぶー
  第4章  地域ブランドで発展する加工ビジネス ーフランス・アルザスワインに学ぶー
  第5章  農村ツーリズムの担い手たち ードイツのPLENUMプロジェクトに学ぶー
  第6章  多様な担い手で発展する農家民宿 ーイタリアのアグリ・ツーリズモに学ぶー

 
 書評)
 著者は、地元の三重大学生物資源学部教授として、地域農業論、協同組合論等を専門に研究されてきたが、その後、NPO法人・地産地消ネットワークみえ理事長などを務められるなど、地域活性化の問題について大変造詣が深い。

  著者は、日本各地の農村地域で、高齢化、過疎化等、地域社会の衰退が進む中、農村版のコミュニティ・ビジネスを展開することにより農村地域の再活性化を図る目的で、欧州を中心に海外におけるコミュニティ・ビジネスの事例を現地で調査・体験し、紹介している。

 欧州の農村におけるコミュニティ・ビジネスの事例として、スイスについては、CSA(Community
Supported Agriculture
:地域によって支えられる有機農業)が拡大しつつあること、フランスについては、アルザス地方においてワイン産業の発展にとって歴史的役割を果たしてきたAOC制度(ブドウの生産条件とワインの品質基準を定め、これに適合しているかを認定する制度で、ワインのブランド化に貢献)を支える地域組織の重要性、ドイツについては、農村ツーリズムが盛んであるが、南ドイツにおいて非営利組織コンスタンツ・モデルプロジェクト有限会社の中間支援組織(自らビジネスを行うのではなく、農家などのビジネス化を支援し、ネットワーク形成を行う)としての取り組みの重要性が紹介されている。イタリアでは、農家民宿が盛んでアグリ・ツーリズモと言われるが、最近農村地域に増えてきた空き家を使って、農村地域の豊かな食材、景観、歴史遺産等を生かした農家民宿が農村外からの新規参入も含め多様な担い手によって盛んになりつつ状況が紹介されている。

 翻って、わが国のグリーンツーリズムを見ると、著者は、まだまだ「未開発」な部分が多いという。農村地域においては観光業の担い手が少ないことを挙げ、グリーンツーリズムの発展には、豊富に存在する地域資源の「観光資源化」と、観光資源を利用した「観光商品化」の2つの過程が必要であり、前者は外部経済的(経済的にプラスの効果を生み出すが、市場取引のように直ぐにお金にならない)な要素が強く、後者は商品化を通じて収益につながりやすいという特徴があり、両者を分けて考える必要があるという。特に、前者は、自然、農村の景観、歴史遺産などの維持管理が必要な部分であり、このために、市町村など公的セクターや協同セクターの関与が必要であるとしている。商品化の過程においては、資本、技術、ノウハウなどが必要である。

 しかし、農村地域には、これら観光資源を商品化する資本、技術、ノウハウ、担い手が不足しており、この仲介役となる中間支援組織の存在も重要となる。農村コミュニティ・ビジネスを始める場合に基礎となる組織として、地域の自治組織であるローカルコミュニティ、組織として特化し社会問題の解決を目指すNPO法人等のテーマ・コミュニティがある。また、農村地域には、組合員の利益を増進する自助組織である農協があまねく存在しており、農協の組合員活動の再活性化が求められている。このような中で、農協の経済的な目的と社会的目的を統合して農村社会システムの再活性化に貢献することで、組合員の信任を得、地域住民の支持
が広がれば、組織強化に繋がることになる。著者は、農村コミュニティ・ビジネスを展開させていく上で、農村部で圧倒的に不足している中間支援組織としての役割を農協が担うことを強く期待している。

 なお、イタリアにおけるアグリ・ツーリズモについては、当ホームページで紹介した、島村菜津著「スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアの小さな町」に更に詳細に書かれている。

 本書を読んで思うことは、今後、農村地域は少子高齢化、過疎化、TPPによる農産物価格の低下による農業経営の行き詰まりと離農増加など、先行き明るくない状況が続くと考えられる。しかし、困難さが増せば、それだけビジネスチャンスが生まれることにもなる。コミュニティ・ビジネスは、基本的に、人々が必要とすることに応え、喜んでもらうことをビジネスにすることが基本で有り、そのようなサービスを上手に提供できるならばビジネス化できる可能性がある。人口密度が少なく、しかも、高齢化率が高く、現金収入が比較的少ない人たちが多い農村地域におけるビジネスは、スモールだが、大手が参入しにくいニッチ市場であり、更に、人との絆が重要で、外部から参入しにくいなどの特徴がある。また、身近な自然、景観、食材、農業体験などを都会人の目で見直せば、観光資源に限りなく満ちあふれている。若い人たちが(都会からの新規参入者も含めて)、農村の魅力に改めて気づき、農村で必要とされていることをターゲットに、本書で紹介された諸外国の例なども含めて研究を重ね、実践することによって、コミュニティ・ビジネスを生み出し、育てていくことを願っている。(2013年6月15日/記)


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