紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク | 紀伊・環境保全&持続性研究所 連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp |
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著者は、日本各地の農村地域で、高齢化、過疎化等、地域社会の衰退が進む中、農村版のコミュニティ・ビジネスを展開することにより農村地域の再活性化を図る目的で、欧州を中心に海外におけるコミュニティ・ビジネスの事例を現地で調査・体験し、紹介している。
欧州の農村におけるコミュニティ・ビジネスの事例として、スイスについては、CSA(Community
Supported Agriculture:地域によって支えられる有機農業)が拡大しつつあること、フランスについては、アルザス地方においてワイン産業の発展にとって歴史的役割を果たしてきたAOC制度(ブドウの生産条件とワインの品質基準を定め、これに適合しているかを認定する制度で、ワインのブランド化に貢献)を支える地域組織の重要性、ドイツについては、農村ツーリズムが盛んであるが、南ドイツにおいて非営利組織コンスタンツ・モデルプロジェクト有限会社の中間支援組織(自らビジネスを行うのではなく、農家などのビジネス化を支援し、ネットワーク形成を行う)としての取り組みの重要性が紹介されている。イタリアでは、農家民宿が盛んでアグリ・ツーリズモと言われるが、最近農村地域に増えてきた空き家を使って、農村地域の豊かな食材、景観、歴史遺産等を生かした農家民宿が農村外からの新規参入も含め多様な担い手によって盛んになりつつ状況が紹介されている。
本書を読んで思うことは、今後、農村地域は少子高齢化、過疎化、TPPによる農産物価格の低下による農業経営の行き詰まりと離農増加など、先行き明るくない状況が続くと考えられる。しかし、困難さが増せば、それだけビジネスチャンスが生まれることにもなる。コミュニティ・ビジネスは、基本的に、人々が必要とすることに応え、喜んでもらうことをビジネスにすることが基本で有り、そのようなサービスを上手に提供できるならばビジネス化できる可能性がある。人口密度が少なく、しかも、高齢化率が高く、現金収入が比較的少ない人たちが多い農村地域におけるビジネスは、スモールだが、大手が参入しにくいニッチ市場であり、更に、人との絆が重要で、外部から参入しにくいなどの特徴がある。また、身近な自然、景観、食材、農業体験などを都会人の目で見直せば、観光資源に限りなく満ちあふれている。若い人たちが(都会からの新規参入者も含めて)、農村の魅力に改めて気づき、農村で必要とされていることをターゲットに、本書で紹介された諸外国の例なども含めて研究を重ね、実践することによって、コミュニティ・ビジネスを生み出し、育てていくことを願っている。(2013年6月15日/記)